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岩波書店就業規則改定案の本質 

今回の岩波書店の就業規則改定案の主要な目的の一つが、経営陣に対する批判(例えば、当ブログの記事「岩波ブックレット『憲法を変えて戦争へ行こうという世の中にしないための18人の発言』をめぐる一件」 を参照)の封殺にあることは確実であろう。だが、問題点は、それにつきない。以下、改定案の問題点を、いくつかの面から指摘し、その本質を浮かび上がらせたい。

1.「職員就業規則等」なる言葉

まず、「法の支配」という観念すら欠いているように思われる点を指摘しなければならない。

懲戒解雇(現行規則では「懲戒解職」)を含めた懲戒の規定に関して、現行規則第41条では「職員就業規則に違反した場合」となっているのに対し、改定案第41条では、「職員就業規則に違反した場合」となっている(強調は引用者、以下同じ)。

改定案第1条の2では、「この規則には別に定める諸規則が付属し、それらを含めて就業規則という。」とあるので、ここでの「等」には、「別に定める諸規則」は含まれないはずである。つまり、会社は就業規則に基づかず、恣意的に懲戒をするか、将来的には多数派組合の同意を必要としない命令を公布し、それにより懲戒を行うことができる余地を残している、ということだと思われる。改定案のファシズム的な性格を象徴している。


2.懲戒

「罰」を定めた第41条は、現行では「職員就業規則に違反した場合には、その程度に応じ、譴責、減俸、懲戒休職、停職、懲戒解職等の方法によって処分する。」としか規定されていないが、改定案では以下のようになっている。

<第41条 職員就業規則等に違反した場合には、その程度に応じ、譴責、減俸、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇の方法によって処分する。
 ②  前項の処分に関する規定は、第41条の2から第41条の9に定める。

第41条の2 懲戒処分の種類は次のとおりとする。
 1.譴責
   文書によって将来を戒める。
 2.減俸
   減俸する。ただし、減俸の額は労働基準法第91条の定めによる。この場合、総額が月額給与の1割を超えたときは超えた額について翌月の給与から減給し、更に残額があるときは以後もまた同様とする。
 3.出勤停止
   10日間を限度として出勤を停止し、その間の給与はその全額を支給しない。
 4.降格
   役職を下げる。これに伴い給与を変更することがある。
 5.諭旨解雇
   退職願を提出するように勧告する。退職金は一部支給することがある。退職願を提出しない場合は懲戒解雇する。
 6.懲戒解雇
   即時解雇し退職金を支給しない。所轄労働基準監督署長の認定を受けた場合は解雇予告手当も支払わない。

第41条の3 職員が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、譴責、減俸、出勤停止、降格とする。
 1.正当な理由なく、就業規則およびその付属規定に違反し、あるいは会社の指示に従わなかったとき
 2.第10条第2項に定める機密を故意に漏洩し、会社に損害を与えたとき
 3.正当な理由なくしばしば、遅刻、早退するなど勤務を怠ったとき
 4.虚偽の申告、届出を行ったとき
 5.職務上の指揮命令に従わず、職場秩序を乱したとき
 6.素行不良で会社内の秩序もしくは風紀を乱したとき
 7.その他前各号に準ずる行為があったとき

第42条の4 職員が次のいずれかに該当するときは、諭旨解雇または懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、出勤停止または降格とすることがある。
 1.正当な理由なく無断欠勤14日以上におよび、出勤の督促に応じなかったとき
 2.採用を左右する重要な経歴を詐称して雇用されたとき
 3.正当な理由なくしばしば業務上の指示・命令に従わず、職務の遂行を妨げまたは職場秩序を著しく乱したとき
 4.素行不良で再三注意をしても改まらず、会社内の秩序もしくは風紀を著しく乱したとき
 5.故意または重大な過失または職務の怠慢のため、重大な災害、交通事故、傷害、盗難その他の事故を発生させ、または業務上の重要な情報を消失させもしくは破壊したとき
 6.会社および会社の職員または著者および関係取引先を誹謗もしくは中傷し、または虚偽の風説を流布もしくは宣伝し、会社業務に重大な支障を与えたとき
 7.暴行、脅迫、傷害、窃盗、横領、背任行為など刑法等の犯罪に該当するまたはこれに類する重大な行為をしたとき
 8.数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度などに関し改善の見込みがないとき
 9.就業規則第2章(服務規律)に違反した場合であって、その事案が重大なとき
 10.その他前各号に準ずる行為があったとき

第41条の5 職員に諭旨解雇または懲戒解雇に該当する事由がある場合、当該処分について調査または決定するまでの間につき、3カ月以内を限度に自宅待機を命ずることがある。
 ② 前項の自宅待機の期間中は、平均賃金の60%以上を支給する。ただし、事故発生または不正行為の再発のおそれがあると会社が判断したときは、給与を支給しないことがある。

第41条の6 会社は当該職員に対し、第41条の2に定める懲戒処分のほか、会社の受けた損害の全部または一部を弁済させる。ただし、情状により損害の弁済を軽減または免除することがある。
  ② 前項に定める損害の弁済は、退職後も免れることはできない。

第41条の7 会社は、他の職員の懲戒に該当する行為に対し、ほう助または教唆もしくは加担したことが明白な職員については、本人に準じて処分する。

第41条の8 所属の職員が諭旨解雇または懲戒解雇に該当する行為をしたときは、当該管理・監督者に対しても、相応の処分をする。ただし、管理・監督者がこれを防止する努力をしたとき、あるいは、責任を問うことができないと判断されるときは この限りではない。

第41条の9  同一の事実関係によって、職員は二度懲戒処分を受けることはない。
 ②  この罰則に関する規定が改定されたことによって、新たに設けられた懲戒事由が遡及して適用されることはない。>

この懲戒解雇規定についてはこのブログでも既に批判してきたが、そこでの論点に加えて、会社の解釈次第でどうにでもできる根拠で懲戒解雇すらできる点も重要である。「ほう助または教唆もしくは加担」したとされる根拠も、会社が「明白」だと考えるから、というものであり、恣意的である。また、遅刻を繰り返しても懲戒解雇に至りうる。

なお、改定案では、以下の規定も新設されている。

<第64条の2 退職金を受給した職員に懲戒解雇に相当する事由が発覚したときは、会社は、すでに支給した退職金の返還を命じることができ、当該本人はこれに従わなければならない。


3.退職・解雇

退職に関する現行規則の第48条においては、「職員が退職を希望するときは、予めその理由を記した退職願を提出し、会社の承認を受けること。」とのみ規定されているが、改定案では以下の項目が付け加えられている。これでは社員は長時間労働で身体的限界に達しても、辞めることすらできない。

<②  前項の手続きをした者は、会社の承認があるまで従前の業務を誠意をもって遂行し、承認があったときはその日から退職する日までの間に会社の指示に従って円滑に引継ぎをしなければならない。>

また、改定案では、「第48条の2」が新設されている。これは解雇について新しく定めた規定である。

<第48条の2 職員が次のいずれかに該当する場合は、解雇(契約解除を含む)することがある。
  1.特定の職種や地位に従事することを条件として雇用された者で、その職務遂行に必要な能力が著しく欠如しているとき
  2.勤務成績もしくは作業能率が著しく不良で、指導教育するも改善せず、職員として適格性に欠けるとき
  3.勤務態度が不良である、あるいは協調性に欠けるため、就業環境を悪化させ、再三注意しても改善しないとき
  4.第41条3に該当し懲戒処分が複数回行われたにもかかわらず、再度同一事由を行ったとき
  5.就業規則第41条の4に規定する懲戒解雇に相当する行為があったとき
  6.精神もしくは身体に障害が生じ、会社がその程度に配慮した労働の提供を求めても、将来にわたって業務に耐えられないかもしくは会社が求める労働の提供ができないと会社が判断したとき
  7.事業(事業場を含む)の休業、終了、廃止、縮小その他事業上の都合により余剰員を生じ、他に適当な配置箇所がないとき
  8.天災・事変その他これに準ずるやむを得ない事由のため事業の継続が困難となったとき
  9.その他前各号に準ずるやむを得ない事由のあるとき

第48条の3  会社は、前条に基づき職員を解雇するときは、30日前に予告するか、平均賃金の30日分に相当する予告手当を支払う。この場合、平均賃金を支払った日数だけ予告日数を短縮することができる。>

ここでも、会社は極めて恣意的な根拠で社員を解雇できるようになっている。


4.休職

休職に関しては、現行規則では「傷病その他やむをえない理由で欠勤3カ月を経過した場合」の他は社員の自発的な意志にのみ基づいており、会社の命令で社員を休職させる、などということが起きる可能性はほぼない。休職者の復職も第45条で「傷病による休職者が復職する場合には、予め医師の診断書を添えて出勤届を総務部に届け出ること。」と規定されているのみであり、復職が会社から拒否される可能性もほぼない。

しかし、改定案では会社が職員に休職を命じることができるようになっている。それにより、会社が社員について「言動や状況等」から病気であると主張すれば、職員を休職・退職に追い込むことができるようになっている。まるで全体主義国家のようだ。

まず、改定案では、以下のように規定されている。

<第42条 会社は、職員が傷病またはその他の理由で勤務できないときは休職を命じることができる。>

今回、改定案とともに提案されている付属規則「休職・復職規定」では、以下のように、社員は「その言動や状況等」がおかしいと会社が主張すれば、医師の診断を受けて、診断書を会社に報告しなければならない(以下の条文は付属規則「休職・復職規定」のもの)。

<(受診勧告)第4条 会社は、職員に対しその言動や状況等から心身の健康管理上医師の診断が必要と判断されるにもかかわらず、本人が診断を受けない場合には、受診を指導し勧告することができる。

(受診命令)第5条 職員が前条に定める受診勧告に応じない場合であって、当該職員の心身の健康管理上または職場の管理上必要と判断される場合には、会社は当該職員に対し会社の求める事項について医師の診断を受けて、その結果を記した医師の診断書を会社に提出するよう、命ずることができる。

「休職・復職規定」の第3条で、「職員が次のいずれかに該当したときは休職を命じることができる」としているが、その中には、
<2.精神または身体上の疾患により一定期間にわたり通常の労働提供ができないと会社が判断したとき>
<6.前各号のほか、特別な事情があって会社が休職させることを必要と認めたとき>

という場合が挙げられており、会社が、職員に対して恣意的に休職を命じることができるようになっている。したがって、提出された診断書がどのようなものであれ(あるいは診断書の提出を待たずに)、会社の判断により休職を命じることができるのである。

また、精神または身体の疾患を理由として休職している(させられている)社員は、会社が命じる医師による受診を行わなければならない。

<第9条 第7条第1項第1号の休職期間中、会社は必要に応じて社員に会社が指定する医師等による受診を命じることができ、社員は正当な理由なくこれを拒んではならない。
 ②  会社が特に必要と認め、診断書を作成した医師(主治医であると否とを問わない)に対する面談等による病状の確認を求めた場合には、社員はこれに応じなければならない。>

また、休職中の社員は、「原則として1カ月に1回の割合で自己の病状等について電話またはメール等により所属長に報告しなければならない」(第8条②)

そして、精神または身体の疾患を理由として休職した職員の復職は、無条件ではなく、「休職の理由となった疾病等が通常の業務を遂行することに耐え得る段階まで治癒したことを客観的な資料等をもって会社に示さなければならない」とされている(第12条の1)。

「客観的な資料等」とは、「主治医の診断書および会社が指定する医師等の診断書もしくは会社が指示した書類」である(第12条の2)。つまり、会社が指定した医師が「復職不可」と診断すれば復職できないということである。

また、仮に会社が指定した医師が復職を可としても、第13条の1では「復職の諾否の判断は会社が行う」と規定されているので、会社は復職を拒否できる(なお、この第13条の1の規定は、休職者のうち、精神または身体の疾患を理由とした休職者以外にも適用されうる規定である)。

仮に復職できたとしても、第14条の1では、「復職した職員が、復職後6カ月以内に同一または類似の傷病により欠勤もしくは通常の労働の提供ができない状況に至ったときは復職を取り消し、直ちに休職させることができる」と定めている。つまり、復職後でも、第9条の2にあるように、会社が、会社が指定した医師による受診を命じた上で、そこで「通常の労働の提供ができない状況」だと診断されれば、また休職しなければならなくなるのである。

そして、「職員が所定の休職期間を満了し、復職できないときは就業規則第46条の定めにより退職とし、職員としての身分を失う」(第15条)こととなるのである。

**********

強調しておかなければならないのは、「良心的出版社である岩波書店にとってこんな改定案はふさわしくない」ということではなく、この改定案こそが、岩波書店の経営陣の実像と、彼らが推進してきた<佐藤優現象>その他の現象の性格を体現している、ということである。

(金光翔)


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[ 2015/04/02 00:33 ] 未分類 | トラックバック(-) | コメント(-)


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