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声明:岩波書店の縁故採用に改めて抗議する 

声明:岩波書店の縁故採用に改めて抗議する

私たち首都圏労働組合は、2月2日、2月16日の2度にわたり岩波書店(以下「会社」)に対し、「岩波書店著者の紹介状あるいは岩波書店社員の紹介があること」とする2013年度社員採用の応募条件を撤回するよう求めてきたが、会社は撤回はおろか私たちへの回答すら行なわなかった。会社が撤回しないまま、応募期間はついに終了した。これは、一企業が、縁故による採用しか認めないと社会に向け公言した上で、機会均等の原則それ自体を実質的に否定したという歴史的犯罪である。

昨年度、非公開のうちに行なわれた縁故採用について、問題の重大性を認識せず、労働組合として公的に批判・撤回要求を行なわなかったことを自己批判するとともに、私たちは、この機会にこの問題に関する私たちの立場を公的に明らかにしておく。

会社の応募条件は、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない 」としている日本国憲法第14条の趣旨に対し明白に違反している。「社員・著者の紹介」を応募条件とすること自体が「社会的関係」の有無による差別と排除であり、社会的格差の固定化を生むことは明白である。

会社は、厚生労働省の調査を受けて、2月6日、公式ホームページに「(著者・社員の紹介)もとれない場合は、小社総務部の採用担当者に電話でご相談ください」などと書いた上で、「「著者の紹介、社員の紹介」という条件は、あくまで応募の際の条件であり、採用の判断基準ではありません。」と述べている。だが、これは、「縁故の無いことによる門前払いならば許される」と主張していることを意味するのであって、応募条件を満たすか満たさないかを「判断」すること自体が採用過程の一環であることは明らかであるから、会社の主張は支離滅裂である。このような主張を公然と行なうこと自体、今回の縁故採用の公言と同じく、会社の上層部が、どれほど社会常識を欠落させているかを如実に示していると言える。

また、上記の「(著者・社員の紹介)もとれない場合は、小社総務部の採用担当者に電話でご相談ください」などという文言は、厚労省の調査の結果、「著者などの紹介が難しい希望者でも応募できるように改めた」(朝日新聞2月17日付)ゆえに付け加えられたものであって、このような表面的な修正が、厚労省によるさらなる行政指導および社会的批判を回避するための欺瞞的なものであることは明らかである。

しかも、2月17日の厚労省発表「岩波書店の募集採用に関する事実関係の把握について」によれば、会社は、「著者等の紹介を選考の基準とはせず、筆記試験と面接試験により厳正な選考を行う考えである」「著者等の紹介を得ることが難しい応募希望者についても、採用担当部門で話を聴いた上で、応募機会の確保を図っている」などと厚労省に説明しているとのことであり、それならば、上記の修正によって、採用判断に関して、著者・社員による紹介を応募条件としたことによる応募者の差別化は不可能になったはずであるが、会社は応募条件の撤回をしていない。会社の主張は、二重三重に支離滅裂であって、これは、こうした修正が、厚労省によるさらなる行政指導および社会的批判を回避するために加えられたに過ぎないことを改めて示している。

また、上記厚労省発表によれば、会社は厚労省に対して、「今回の募集方法は、応募者の熱意や意欲を把握したいという意図によるものである」などと主張しているとのことである。だが、私たちの2月5日のブログ上での記事「メディア報道における岩波書店の弁明への疑問と批判」で明らかにしたように、会社は昨年12月21日付で、小松代和夫総務部長名義で全社員に「2013年度 社員募集」なる文書を配布しており、その中では、「日頃お付き合いのある著者の中で、今回の社員採用に際してご協力を依頼できる方」への依頼を社員に行なってもらうために、社員が著者の候補者を会社に伝えること、それを基に会社が「依頼リスト」を作成し、「依頼状と募集要項」を会社が各著者に送付することが明記されている。また、社員による紹介に関しても、「お知り合いの方に2013年度の社員募集を行う旨を伝え、応募を希望される方に「募集要項」をお渡しください。」と、社員との一定の交友関係が前提とされたものであり、また、岩波書店社員が自分から働きかけるものであることが明記されている。

また、2月21日の毎日新聞東京版夕刊記事「特集ワイド:岩波書店・募集要項の波紋 著者に「協力」依頼、存在していた「内部文書」」によれば、小松代総務部長は、社員による特定の著者への紹介依頼の事実と、紹介を依頼した著者を総務部で記録している事実を認めている。しかも、社員が著者の候補者を会社に伝える締切は、1月13日と指定されており、これは、会社ホームページで募集が告知される1月10日のわずか3日後である。これでは、「日頃お付き合いのある著者の中で、今回の社員採用に際してご協力を依頼できる方」の紹介状を獲得しようという応募者の「熱意や意欲」など、会社は把握しようがない。

このように、「今回の募集方法は、応募者の熱意や意欲を把握したいという意図によるものである」などという説明は、実態と完全に矛盾しているものであり、厚労省のさらなる行政指導を逃れるための姑息な弁明と言わざるを得ない。

また、会社による今回の応募条件は労働行政の指針にも違反している可能性が高い。「平成11年労働省告示第141号」を根拠としてつくられた熊本労働局ホームページ「公正な採用選考のために」(http://kumamoto-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/hourei_seido_tetsuzuki/shokugyou_shoukai/hourei_seido/jigyou07.html)では「日本国憲法は、全ての人に職業選択の自由を保障しています。また企業にも採用の自由が認められています。しかし、だからといって企業が採用選考時に何を聞いても何を書かせてもよいというものではありません。応募者の基本的人権を侵かしてまで、採用の自由は認められているわけではありません。採用選考にあたっては、●応募者の基本的人権を尊重すること。 ●応募者の適性と能力のみを基準とすること。」と前置きしたうえで、「「当社に知人がいるか」の質問については、就職の機会均等の精神に反し縁故・知人採用をしていると受け取られる質問は公平な選考とはなりません。」と明言されている。縁故の有無を質問すること自体が違反ならば、募集の条件にすることは、なおさら違法性が高いと言えよう。

ウェブ上では、「著者の紹介状を獲得することは出版社の社員にとって必要なスキルのはず」などといった馬鹿げた擁護論も散見されるが、これでは「岩波書店社員の紹介」をも応募条件として認めている理由すら説明できない。今回の応募条件は、何らかのスキルを見るといったものではなく、私たちがこれまで再三指摘しているように、もはやカルトの域にまで達している岩波信仰、度しがたい権威主義、「自己陶酔と自己欺瞞と徹底した無責任さ」(2011年5月14日付ブログ記事「「岩波原理主義者」たちとの闘い――「解雇せざるをえない」との通知について」http://shutoken2007.blog88.fc2.com/blog-entry-34.html)の現れに過ぎない。今回の応募条件の公表も、会社上層部が、このような長年のカルト的な自己陶酔によって、社会的な常識や目線から完全に乖離してしまっている点が背景にある。彼らは、縁故採用が悪いものだという認識を全く持っておらず(過去の慣例の復活に過ぎない、などという答弁を平気で語る点にそれが表れている)、社会的に問題とされる可能性すら思い至らずに応募条件を大っぴらに出してしまい、後付けで「熱意や意欲を把握」したかったなどと理屈をでっちあげているだけではないか、と私たちは考えている。

会社は今回の応募条件を過去の慣例の復活であり、昨年度も行なわれたものだと主張している。その過去の慣例自体が不公正なものであるが、私たちが注目しているのは、その時期である。会社は、2010年5月28日に、労働基準監督署から、三六協定のないまま社員に対して違法労働をさせていたことに関して行政指導を受けた。社員の恒常的な過剰な残業はこの会社の深刻な問題であるが、会社はそれまで、一切残業代を支払ってこなかったのである。現在、会社と、ユニオンショップ組合である岩波書店労働組合(以下、岩波労組)との間で三六協定締結のための交渉が行なわれているが、現在の交渉内容からすれば、会社の求める編集職の裁量労働制が是認されると思われる。過酷な労働は編集職の新入社員や若年社員において特に深刻であり、それを理由として辞める社員もしばしば存在するが、縁故採用で入社した社員の場合、自発的に辞めにくいことは明らかである。私たちは、会社による縁故採用の復活が、新人・若年労働者の過剰労働という構造を温存させたまま、三六協定締結・発効という新しい状況に適応するための方策ではないか、との疑いを強く持っている。

ついでながら、岩波労組は、会社による縁故採用がこれほど大きく社会的に注目を浴びたにもかかわらず、会社に対して、公的に撤回要求・抗議を何ら行なわず、この件に関して沈黙を守っている。それどころか、厚労省が岩波書店を調査するとの意向を表明したことに対して、岩波労組およびその上部団体の出版労連で長年要職を務めてきた人物は、ツイッター上で、「厚生労働省まで乗り出してくるなんて。被災地の雇用創出とか、ほかにもっとやるべきことがあるでしょうが、と言いたいです。」などと反発をあらわにしている。また、岩波労組の現在の書記長も、岩波書店の応募条件の問題視に反発する岩波書店職制の発言を好意的に引用した上で、縁故を応募条件にしたことを不問に付したまま、縁故で応募してきた人間のうち「あと、けっこうな数の人が落とされてるはず、昨年度。」などと発言し、「「著者の紹介、社員の紹介」という条件は、あくまで応募の際の条件であり、採用の判断基準ではありません。」との会社の主張を擁護している。今回の件は、岩波労組の徹底した御用労組ぶりを、改めて明らかにしたと言える。

岩波書店の「(著者・社員の紹介)もとれない場合は、小社総務部の採用担当者に電話でご相談ください」との修正が、上で述べたように、単なる行政指導逃れの口実に過ぎないことは明白であって、このような付則を加えれば縁故採用を行なってよいということであれば、こうした「応募条件」を模倣した企業も現れてくるだろう。また、縁故採用が公然と容認されることは、「縁故」「コネ」採用を肯定する社会的風潮を助長し、採否の基準が今以上に「縁故」「コネ」に左右される事態をもたらす。

日本社会の現実においてはただの形式的なものとして扱われている場合が多いにせよ、雇用機会の平等は守られなければならない社会規範であるにもかかわらず、その重大性に対する認識を欠落させたまま、会社による今回の行為を追認する言説が非常に多いことに対しても、私たちは危機感をもっている。今回のような採用形態が社会的に定着していけば、雇用難に苦しむ多くの人々、特に学生が大きな精神的被害を被り、また、雇用の機会を失うことは明らかである。岩波書店の今回の措置は、企業としての社会的責任という観点を完全に欠落させた行為であり、到底是認されるものではない。

岩波書店上層部は、あたかも応募条件による応募者の差別化自体は実施しないかのような弁明を会社として行なっておきながら、また、これほど大きな社会的注目を浴びてもはや当初の目的とされる応募者の削減すら困難になったにもかかわらず、また、多くの社会的批判を浴びたにもかかわらず、縁故採用の応募条件を撤回しなかった。ここには、自分たちの落ち度を認めると何らかの責任をとらざるを得なくなるから居直るという、姑息かつ笑うべき責任回避の姿勢以外のものを見出すことはできない。

さらに驚くべきことは、役員の一人である岡本厚取締役が、月刊誌『世界』の編集長をも現在、兼任している事実である。『世界』が長年、「平等」や「機会均等」、「反格差社会」といった論陣を展開してきたことは周知のことであるが、今回の事態は、そのような言論活動が内実の伴わないものであったことを誰の目にも明らかにしたと言える。これは、『世界』編集長の前任者である山口昭男代表取締役社長についても同様のことが言える。今後、『世界』や岩波書店が、「平等」や「機会均等」、「反格差社会」といった主張を展開すれば、笑うほかない。

私たちは、岩波書店による縁故採用を今後も強く批判していくことをここに宣言する。


2012年4月6日 首都圏労働組合執行委員会 
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[ 2012/04/06 00:00 ] 未分類 | トラックバック(-) | コメント(-)


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