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声明:岡本厚・岩波書店取締役の『世界』編集長辞任に関して 

声明:岡本厚・岩波書店取締役の『世界』編集長辞任に関して

私たち首都圏労働組合は、2012年4月6日にブログ上に発表した「声明:岩波書店の縁故採用に改めて抗議する」において、

「さらに驚くべきことは、役員の一人である岡本厚取締役が、月刊誌『世界』の編集長をも現在、兼任している事実である。『世界』が長年、「平等」や「機会均等」、「反格差社会」といった論陣を展開してきたことは周知のことであるが、今回の事態は、そのような言論活動が内実の伴わないものであったことを誰の目にも明らかにしたと言える。これは、『世界』編集長の前任者である山口昭男代表取締役社長についても同様のことが言える。今後、『世界』や岩波書店が、「平等」や「機会均等」、「反格差社会」といった主張を展開すれば、笑うほかない。」

と指摘したが、そのわずか2日後の4月8日に発売された『世界』2012年5月号の「編集後記」において、岡本は、同号をもって編集長を辞任する旨述べている。
http://www.iwanami.co.jp/sekai/2012/05/pscript.html

岡本が編集長を兼任し続ける限り、上記の声明文のように、縁故採用の責任者の一人である岡本が『世界』で「平等」や「機会均等」、「反格差社会」といった論陣を展開することへの批判・疑問が生ずることは明らかであり、岡本の辞任には、そのような批判・疑問を回避することが大きな要因として存在すると私たちは考える。しかも、『世界』5月号にも、4月号(3月8日発売)にも、縁故採用問題に関する岡本または『世界』編集部の弁明は一切ないのであって、私たちは、事実上逃亡したといえる岡本の無責任さにただ呆れている。

また、この5月号の「編集後記」で岡本は、「月刊誌という、テレビや新聞と比べ、小さいと思われるメディアでも、志次第では、なお大きな役割を果たしうると言いたいのである。「世界」は、朝鮮半島との関係を大切にしてきた。それは日本自身のためにそれが重要なことだと考えてきたからだ。」「「世界」は思われているより、存在として大きい。」などと自画自賛している。だが、「拉致問題」の解決、「国益」のためには在日朝鮮人に対して差別的に扱ってもよいという論理を、近年、最も精力的にメディアで展開してきた佐藤優の論壇席巻(<佐藤優現象>)について、精力的に後押ししてきた筆頭とも言うべき編集者が岡本であることは周知の事実である(注1)

岡本は、『世界』誌上で佐藤の「論壇」デビューから一貫して、佐藤を精力的に起用し続け、佐藤を日朝国交正常化に向けて「現実を動か」そうとした官僚と同列視するという詐欺的な行為で、韓国の有力者に佐藤を売り込むことすら行なっている(注2)

岡本は、佐藤のみならず、佐藤と関係の深い鈴木宗男や、鈴木とつながりが深いとされる小沢一郎らを積極的に『世界』誌面で起用し、擁護する論調の誌面構成を行なってきた。また、民主党への「政権交代」や民主党政権を、他に匹敵する雑誌がほとんどないほど一貫して擁護し続けてきた。佐藤優の積極的起用や右派政治家の宣伝等のこうした岡本の行為は、岡本が自賛するように、『世界』がいまだにマスコミや左派系のジャーナリズム・運動圏に一定の影響があるがゆえに、日本社会に大きな悪影響を及ぼしてきた。

また、2009年10月に出された「<佐藤優現象>に対抗する共同声明」(注3)では、『世界』執筆者や読者を含めた多くの人々の賛同の下、「(『世界』『週刊金曜日』その他の「人権」や「平和」を標榜する)メディアが佐藤氏を積極的に誌面等で起用することは、人権や平和に対する脅威と言わざるを得ない佐藤氏の発言に対する読者の違和感、抵抗感を弱める効果をもつことは明らかです。私たちは、佐藤氏の起用が一体どのような思考からもたらされ、いかなる政治的効果を持ち得るかについて、当該メディアの関係者が見直し、起用を直ちにやめることを強く求めます。」と主張されているにもかかわらず、岡本はこの呼びかけを完全に黙殺してきた。

また、岡本は、編集長になる以前から、実質的な改憲論である「平和基本法」の『世界』誌上での掲載を積極的に推し進め、編集長就任後も「平和基本法」に沿った「国際貢献」への自衛隊積極活用の主張を繰り返し掲載し、日本の護憲派の、安全保障基本法制定による解釈改憲容認論への移行を積極的に後押ししてきたのであって、こうした岡本の行為に対する90年代以降の多くの批判にもまともに答えようとしていない。

このような行為(不作為)が、岡本がこの編集後記で白々しく語る「朝鮮半島との関係を問うことは、即ち日本の近代のあり方を問うことである。日本社会に染み付いた強固な帝国意識、冷戦意識を問い、それと闘うことである。」などという発言と相反することは言うまでもない。これらの岡本の姿勢には、縁故採用に関する岩波書店の対応と同じく、徹底した厚顔無恥さと無責任さが如実に現れている。

なお、この5月号の「編集後記」は、『世界』の朝鮮問題に関する具体的な主張にはほとんど触れないまま、『世界』が韓国の有力政治家や北朝鮮の外交官に知られている、褒められているといった類の自画自賛に終始しており、これは、岡本の「16年間」の編集長時代の朝鮮関係に関する言論活動が、「平等」や「機会均等」、「反格差社会」といった主題と同じく、内実の伴わないものであったことを示唆している。

辞任したとは言え、編集部長として岡本が同誌の責任者であることは変わらず、また、同誌に対して当分は岡本が大きな影響力を持つと考えられ、また、岡本自身または『世界』編集部は『世界』誌上において何らの弁明も行なっていないから、私たちが「声明:岩波書店の縁故採用に改めて抗議する」において『世界』について述べた見解は、何ら変わらないことをここで明らかにしておく。


(注1)金光翔「朝鮮学校排除問題と<佐藤優現象>」を参照のこと。
http://watashinim.exblog.jp/10804763/

(注2)金光翔「陰謀論的ジャーナリズムの形成(3) 佐藤優の売込みを図る岡本厚『世界』編集長」を参照のこと。
http://watashinim.exblog.jp/10723086/

(注3)「<佐藤優現象>に対抗する共同声明」
http://gskim.blog102.fc2.com/blog-entry-23.html


2012年4月13日 首都圏労働組合執行委員会
[ 2012/04/13 00:00 ] 未分類 | トラックバック(-) | コメント(-)

声明:岩波書店の縁故採用に改めて抗議する 

声明:岩波書店の縁故採用に改めて抗議する

私たち首都圏労働組合は、2月2日、2月16日の2度にわたり岩波書店(以下「会社」)に対し、「岩波書店著者の紹介状あるいは岩波書店社員の紹介があること」とする2013年度社員採用の応募条件を撤回するよう求めてきたが、会社は撤回はおろか私たちへの回答すら行なわなかった。会社が撤回しないまま、応募期間はついに終了した。これは、一企業が、縁故による採用しか認めないと社会に向け公言した上で、機会均等の原則それ自体を実質的に否定したという歴史的犯罪である。

昨年度、非公開のうちに行なわれた縁故採用について、問題の重大性を認識せず、労働組合として公的に批判・撤回要求を行なわなかったことを自己批判するとともに、私たちは、この機会にこの問題に関する私たちの立場を公的に明らかにしておく。

会社の応募条件は、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない 」としている日本国憲法第14条の趣旨に対し明白に違反している。「社員・著者の紹介」を応募条件とすること自体が「社会的関係」の有無による差別と排除であり、社会的格差の固定化を生むことは明白である。

会社は、厚生労働省の調査を受けて、2月6日、公式ホームページに「(著者・社員の紹介)もとれない場合は、小社総務部の採用担当者に電話でご相談ください」などと書いた上で、「「著者の紹介、社員の紹介」という条件は、あくまで応募の際の条件であり、採用の判断基準ではありません。」と述べている。だが、これは、「縁故の無いことによる門前払いならば許される」と主張していることを意味するのであって、応募条件を満たすか満たさないかを「判断」すること自体が採用過程の一環であることは明らかであるから、会社の主張は支離滅裂である。このような主張を公然と行なうこと自体、今回の縁故採用の公言と同じく、会社の上層部が、どれほど社会常識を欠落させているかを如実に示していると言える。

また、上記の「(著者・社員の紹介)もとれない場合は、小社総務部の採用担当者に電話でご相談ください」などという文言は、厚労省の調査の結果、「著者などの紹介が難しい希望者でも応募できるように改めた」(朝日新聞2月17日付)ゆえに付け加えられたものであって、このような表面的な修正が、厚労省によるさらなる行政指導および社会的批判を回避するための欺瞞的なものであることは明らかである。

しかも、2月17日の厚労省発表「岩波書店の募集採用に関する事実関係の把握について」によれば、会社は、「著者等の紹介を選考の基準とはせず、筆記試験と面接試験により厳正な選考を行う考えである」「著者等の紹介を得ることが難しい応募希望者についても、採用担当部門で話を聴いた上で、応募機会の確保を図っている」などと厚労省に説明しているとのことであり、それならば、上記の修正によって、採用判断に関して、著者・社員による紹介を応募条件としたことによる応募者の差別化は不可能になったはずであるが、会社は応募条件の撤回をしていない。会社の主張は、二重三重に支離滅裂であって、これは、こうした修正が、厚労省によるさらなる行政指導および社会的批判を回避するために加えられたに過ぎないことを改めて示している。

また、上記厚労省発表によれば、会社は厚労省に対して、「今回の募集方法は、応募者の熱意や意欲を把握したいという意図によるものである」などと主張しているとのことである。だが、私たちの2月5日のブログ上での記事「メディア報道における岩波書店の弁明への疑問と批判」で明らかにしたように、会社は昨年12月21日付で、小松代和夫総務部長名義で全社員に「2013年度 社員募集」なる文書を配布しており、その中では、「日頃お付き合いのある著者の中で、今回の社員採用に際してご協力を依頼できる方」への依頼を社員に行なってもらうために、社員が著者の候補者を会社に伝えること、それを基に会社が「依頼リスト」を作成し、「依頼状と募集要項」を会社が各著者に送付することが明記されている。また、社員による紹介に関しても、「お知り合いの方に2013年度の社員募集を行う旨を伝え、応募を希望される方に「募集要項」をお渡しください。」と、社員との一定の交友関係が前提とされたものであり、また、岩波書店社員が自分から働きかけるものであることが明記されている。

また、2月21日の毎日新聞東京版夕刊記事「特集ワイド:岩波書店・募集要項の波紋 著者に「協力」依頼、存在していた「内部文書」」によれば、小松代総務部長は、社員による特定の著者への紹介依頼の事実と、紹介を依頼した著者を総務部で記録している事実を認めている。しかも、社員が著者の候補者を会社に伝える締切は、1月13日と指定されており、これは、会社ホームページで募集が告知される1月10日のわずか3日後である。これでは、「日頃お付き合いのある著者の中で、今回の社員採用に際してご協力を依頼できる方」の紹介状を獲得しようという応募者の「熱意や意欲」など、会社は把握しようがない。

このように、「今回の募集方法は、応募者の熱意や意欲を把握したいという意図によるものである」などという説明は、実態と完全に矛盾しているものであり、厚労省のさらなる行政指導を逃れるための姑息な弁明と言わざるを得ない。

また、会社による今回の応募条件は労働行政の指針にも違反している可能性が高い。「平成11年労働省告示第141号」を根拠としてつくられた熊本労働局ホームページ「公正な採用選考のために」(http://kumamoto-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/hourei_seido_tetsuzuki/shokugyou_shoukai/hourei_seido/jigyou07.html)では「日本国憲法は、全ての人に職業選択の自由を保障しています。また企業にも採用の自由が認められています。しかし、だからといって企業が採用選考時に何を聞いても何を書かせてもよいというものではありません。応募者の基本的人権を侵かしてまで、採用の自由は認められているわけではありません。採用選考にあたっては、●応募者の基本的人権を尊重すること。 ●応募者の適性と能力のみを基準とすること。」と前置きしたうえで、「「当社に知人がいるか」の質問については、就職の機会均等の精神に反し縁故・知人採用をしていると受け取られる質問は公平な選考とはなりません。」と明言されている。縁故の有無を質問すること自体が違反ならば、募集の条件にすることは、なおさら違法性が高いと言えよう。

ウェブ上では、「著者の紹介状を獲得することは出版社の社員にとって必要なスキルのはず」などといった馬鹿げた擁護論も散見されるが、これでは「岩波書店社員の紹介」をも応募条件として認めている理由すら説明できない。今回の応募条件は、何らかのスキルを見るといったものではなく、私たちがこれまで再三指摘しているように、もはやカルトの域にまで達している岩波信仰、度しがたい権威主義、「自己陶酔と自己欺瞞と徹底した無責任さ」(2011年5月14日付ブログ記事「「岩波原理主義者」たちとの闘い――「解雇せざるをえない」との通知について」http://shutoken2007.blog88.fc2.com/blog-entry-34.html)の現れに過ぎない。今回の応募条件の公表も、会社上層部が、このような長年のカルト的な自己陶酔によって、社会的な常識や目線から完全に乖離してしまっている点が背景にある。彼らは、縁故採用が悪いものだという認識を全く持っておらず(過去の慣例の復活に過ぎない、などという答弁を平気で語る点にそれが表れている)、社会的に問題とされる可能性すら思い至らずに応募条件を大っぴらに出してしまい、後付けで「熱意や意欲を把握」したかったなどと理屈をでっちあげているだけではないか、と私たちは考えている。

会社は今回の応募条件を過去の慣例の復活であり、昨年度も行なわれたものだと主張している。その過去の慣例自体が不公正なものであるが、私たちが注目しているのは、その時期である。会社は、2010年5月28日に、労働基準監督署から、三六協定のないまま社員に対して違法労働をさせていたことに関して行政指導を受けた。社員の恒常的な過剰な残業はこの会社の深刻な問題であるが、会社はそれまで、一切残業代を支払ってこなかったのである。現在、会社と、ユニオンショップ組合である岩波書店労働組合(以下、岩波労組)との間で三六協定締結のための交渉が行なわれているが、現在の交渉内容からすれば、会社の求める編集職の裁量労働制が是認されると思われる。過酷な労働は編集職の新入社員や若年社員において特に深刻であり、それを理由として辞める社員もしばしば存在するが、縁故採用で入社した社員の場合、自発的に辞めにくいことは明らかである。私たちは、会社による縁故採用の復活が、新人・若年労働者の過剰労働という構造を温存させたまま、三六協定締結・発効という新しい状況に適応するための方策ではないか、との疑いを強く持っている。

ついでながら、岩波労組は、会社による縁故採用がこれほど大きく社会的に注目を浴びたにもかかわらず、会社に対して、公的に撤回要求・抗議を何ら行なわず、この件に関して沈黙を守っている。それどころか、厚労省が岩波書店を調査するとの意向を表明したことに対して、岩波労組およびその上部団体の出版労連で長年要職を務めてきた人物は、ツイッター上で、「厚生労働省まで乗り出してくるなんて。被災地の雇用創出とか、ほかにもっとやるべきことがあるでしょうが、と言いたいです。」などと反発をあらわにしている。また、岩波労組の現在の書記長も、岩波書店の応募条件の問題視に反発する岩波書店職制の発言を好意的に引用した上で、縁故を応募条件にしたことを不問に付したまま、縁故で応募してきた人間のうち「あと、けっこうな数の人が落とされてるはず、昨年度。」などと発言し、「「著者の紹介、社員の紹介」という条件は、あくまで応募の際の条件であり、採用の判断基準ではありません。」との会社の主張を擁護している。今回の件は、岩波労組の徹底した御用労組ぶりを、改めて明らかにしたと言える。

岩波書店の「(著者・社員の紹介)もとれない場合は、小社総務部の採用担当者に電話でご相談ください」との修正が、上で述べたように、単なる行政指導逃れの口実に過ぎないことは明白であって、このような付則を加えれば縁故採用を行なってよいということであれば、こうした「応募条件」を模倣した企業も現れてくるだろう。また、縁故採用が公然と容認されることは、「縁故」「コネ」採用を肯定する社会的風潮を助長し、採否の基準が今以上に「縁故」「コネ」に左右される事態をもたらす。

日本社会の現実においてはただの形式的なものとして扱われている場合が多いにせよ、雇用機会の平等は守られなければならない社会規範であるにもかかわらず、その重大性に対する認識を欠落させたまま、会社による今回の行為を追認する言説が非常に多いことに対しても、私たちは危機感をもっている。今回のような採用形態が社会的に定着していけば、雇用難に苦しむ多くの人々、特に学生が大きな精神的被害を被り、また、雇用の機会を失うことは明らかである。岩波書店の今回の措置は、企業としての社会的責任という観点を完全に欠落させた行為であり、到底是認されるものではない。

岩波書店上層部は、あたかも応募条件による応募者の差別化自体は実施しないかのような弁明を会社として行なっておきながら、また、これほど大きな社会的注目を浴びてもはや当初の目的とされる応募者の削減すら困難になったにもかかわらず、また、多くの社会的批判を浴びたにもかかわらず、縁故採用の応募条件を撤回しなかった。ここには、自分たちの落ち度を認めると何らかの責任をとらざるを得なくなるから居直るという、姑息かつ笑うべき責任回避の姿勢以外のものを見出すことはできない。

さらに驚くべきことは、役員の一人である岡本厚取締役が、月刊誌『世界』の編集長をも現在、兼任している事実である。『世界』が長年、「平等」や「機会均等」、「反格差社会」といった論陣を展開してきたことは周知のことであるが、今回の事態は、そのような言論活動が内実の伴わないものであったことを誰の目にも明らかにしたと言える。これは、『世界』編集長の前任者である山口昭男代表取締役社長についても同様のことが言える。今後、『世界』や岩波書店が、「平等」や「機会均等」、「反格差社会」といった主張を展開すれば、笑うほかない。

私たちは、岩波書店による縁故採用を今後も強く批判していくことをここに宣言する。


2012年4月6日 首都圏労働組合執行委員会 
[ 2012/04/06 00:00 ] 未分類 | トラックバック(-) | コメント(-)

「岩波書店著者もしくは岩波書店社員の紹介」なる応募条件への撤回要求・抗議文 

抗議文

2012年2月2日

株式会社岩波書店 代表取締役社長 山口昭男殿

首都圏労働組合 委員長 金光翔

貴社が2013年度の社員採用を、一般公募ではなく、岩波書店著者もしくは岩波書店社員の紹介を応募条件としたことは、機会の平等を公然と否定した驚くべき措置であり、今後岩波書店のこの「応募条件」を模倣した企業が現れ、社会的に定着していけば、雇用難に苦しむ多くの人々が大きな精神的被害を被り、また、雇用の機会を失うことは明らかである。

岩波書店の今回の措置は、企業としての社会的責任という観点を欠落させた行為であり、到底是認されるものではない。社員採用にあたって、「岩波書店著者もしくは岩波書店社員の紹介」との応募条件を撤回することを求める。

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抗議文

2012年2月16日

岩波書店 代表取締役社長 山口昭男殿

首都圏労働組合 委員長 金光翔

首都圏労働組合は、2月2日に、岩波書店の社員採用における「岩波書店著者もしくは岩波書店社員の紹介」との応募条件を撤回することを貴殿に求めたが、貴殿は、今日に至るまで撤回はおろか、当組合への回答すら行なっていない。これは、極めて不誠実な対応であると言わざるを得ない。
今回、再度、撤回を求める。
また、この問題に関して、首都圏労働組合特設ブログにおいて、2月5日に「メディア報道における岩波書店の弁明への疑問と批判」と題した記事を、また、2月11日に「浅野健一氏の岩波書店「縁故採用」批判」と題した記事を掲載したので、添付し、貴殿に告知する。

(※添付は略)
[ 2012/03/12 00:00 ] 未分類 | トラックバック(-) | コメント(-)

浅野健一氏の岩波書店「縁故採用」批判 

浅野健一氏が、自身のホームページで、今回の岩波書店の「縁故採用」問題について論じている。

「浅野健一の企業メディア・ウオッチング
岩波書店の不公正な「縁故採用」を批判する――擁護論への疑問」
http://www1.doshisha.ac.jp/~kasano/FEATURES/2012/20120209iwanamienko.html


非常に興味深い内容で、浅野氏が、自身の岩波書店との関わりや、共同通信社時代のコネ入社社員の振る舞い、メディア批判を交えつつ、今回の岩波書店による「岩波書店著者」または「岩波書店社員」の紹介との応募条件を、厳しく批判している。説得力に富んだ内容で、未読の方には、是非一読を薦める。

この首都圏労働組合特設ブログの前回記事「メディア報道における岩波書店の弁明への疑問と批判」も詳しく紹介されている。この記事を踏まえた上で、今回の件について大学・マスコミ関係者が論じたまとまった文章は、これが恐らく初めてのものではないかと思う。

浅野氏のこの記事は、前田朗氏も紹介していた。私も浅野氏の記事が、多くの方に読まれることを望む。

(金光翔)
[ 2012/02/11 13:07 ] 未分類 | トラックバック(-) | コメント(-)

メディア報道における岩波書店の弁明への疑問と批判 

1.

岩波書店が2013年度定期採用で、応募条件として「岩波書店著者の紹介状あるいは社員の紹介があること」を掲げている件が話題になっており、テレビ・新聞等で報道されている。

「【岩波書店の“コネ採用”で調査へ】老舗出版社の岩波書店が定期採用の応募資格に「岩波書店の著者や社員の紹介があること」と明記しいわゆる「コネ」を条件にしていることが分かりました。厚生労働省は、「こうした募集方法は聞いたことがない」として問題がないかどうか調べることにしています。」
https://twitter.com/#!/nhk_kabun/status/165418757244715009


報道によれば、岩波書店は、以下のように釈明しているとのことである(強調は引用者。以下同じ)。

「担当者は縁故採用に限った理由を「出版不況もあり、採用にかける時間や費用を削減するため」と説明。入社希望者は「自ら縁故を見つけてほしい」としている。」(共同通信2月2日 18時19分)
http://www.47news.jp/CN/201202/CN2012020201001572.html

「「縁故採用」ともとられる方法だが、同社は「応募条件であり、採用条件ではない」と反論。また「毎年採用は若干名なのに対し、応募は1000人に及ぶこともある。現在は、結果的に落とすための試験になっており、できるだけそれを避けるため」としている。」
(毎日新聞 2月3日11時33分)
http://mainichi.jp/life/job/news/20120203dde041100095000c.html

「岩波書店は、「数名の定期採用に対して、多い年には1000人を超える応募があり、受験する人の数を制限するため社内で協議し、現在の方式での絞り込みを行っている」と話しています。」(NHK 2月3日 18時18分)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120203/t10015765181000.html

「担当者は「一定のハードルを設けることで、希望者の強い意欲をみせてほしかった」と話している。 現時点で応募条件を満たさない希望者は、大学の先生に相談するなど、自分の行動力で条件を満たせるように努力してほしいとしている。」(日テレニュース24 2月3日19時4分)
http://news24.jp/nnn/news89029968.html

また、FNNニュースでもこの件が報道されているが(2月3日18時39分付)、その映像に映っている、岩波書店からフジテレビに送られてきたFAXには、以下のように記されている。映像から書き起こしたものの全文である。

「フジテレビジョン 報道局「スーパーニュース」

FAXでお問合わせいただいた件につきまして、ご返事いたします。

1.→採用予定人数が極めて少ないため、エントリー数との大きな隔たりを少しでも少なくするためです。

2.→縁故採用とは考えておりません。あくまでも応募の際の条件であり、採用の判断基準ではありません。エントリーをいただいた上で、筆記試験、面接試験を行って採用を決めています。

3.→著者の紹介、社員の紹介という応募条件は、昨年2012年度定期採用でも実施しており、以前も同様の応募条件で行っていました。

4.→ご知友の中に岩波書店の社員がいらっしゃれば、その社員に直接ご連絡ください。いらっしゃらない場合は、当社総務部の採用担当に電話でお問合せください。

5.→入社に強い希望をお持ちの方には門戸は開かれていると考えています。

6.→当社に入社をご希望の方は、是非ゼミや知り合いの先生などにご相談いただくか、上記(4)で述べた方法でチャレンジしてください。

7.→2012年度の採用人数は5人です。応募者数の公表は控えさせていただきます。2013年度定期採用におきましても、採用予定人数は若干名で一桁の前半を想定しております。
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00216572.html
(3分59秒前後の映像より書き起こし)


この件に関するマスコミ上の第一報は、上記の共同通信の記事だが、この報道以後の岩波書店の発言によれば、著者または社員の紹介との応募条件は、一定のハードルを設けることで、希望者の強い意欲をみることを目的として課されたものであり、自分の行動力で努力すれば縁故を見つけることは可能なので、入社に強い希望を持っている人間には門戸は開かれている、ということになる。

だが、このような主張は、岩波書店が岩波書店社員に対して行なってきた説明、および実際と著しく異なっている。以下、指摘する。


2.

岩波書店が2011年12月21日付で、小松代和夫総務部長名義で発行した、社員宛文書「2013年度 社員募集」には、以下のように記されている。これに関して、何らかの修正・変更を行なったという通知は一切ないので、この文書は現在でもこのまま効力を持っているはずである。

「2013年度の社員採用を裏面の「募集要項」で行います。今回も昨年と同様一般公募ではなく、岩波書店著者もしくは社員の紹介を応募条件といたします。

つきましては、社員の皆さまに以下のご協力をお願いいたします。

岩波書店著者への依頼

日頃お付き合いのある著者の中で、今回の社員採用に際してご協力を依頼できる方のお名前、所属および肩書き、送付先住所(自宅でも大学等でもかまいません)を教えてください。【締切=2012年1月13日/金】

それを基に依頼リストを作成し、「依頼状と募集要項」を総務部から送付します。

●なお、皆さんが直接お渡しいただいても結構ですが、その際には総務部にお渡しする方のお名前等を伝え、「依頼状と募集要項」を受け取ってください。

★社員による応募者の紹介

お知り合いの方に2013年度の社員募集を行う旨を伝え、応募を希望される方に「募集要項」をお渡しください。その際、紹介状は不要であることを説明してください。

●「募集要項」は、総務部に用意しております。

●皆さんが紹介してくれた方がエントリーした場合は、総務部から皆さんに「社員紹介者カード」をお渡ししますので、必要事項を記入の上、必ず応募締切日(2012年3月16日/金)までに、総務部まで提出してください。

★外部からの問い合わせ対応

●「2013年度の社員採用は一般公募ではなく、岩波書店著者もしくは社員の紹介を応募条件として行う」こと、「「応募要項」は岩波書店ホームページに2012年1月10日から掲載する予定である」ことをお伝えください。」


このように、ここでは、「岩波書店著者」の紹介は、学生等が自ら獲得しようとする努力により熱意を測ることのできるものではなく、岩波書店が会社として正式に岩波書店著者に依頼することにより、得られるものであることが明確に記載されている。

また、社員が協力を依頼できると考える「岩波書店著者」を会社に申請するのは、1月13日までであると締切りも定められている。これは、「応募要項」がホームページに掲載される1月10日のわずか3日後である。現在、既にこの「岩波書店著者」リストは作成し終えられているはずである。「依頼状と募集要項」も既に送られていると思われる。この過程で、「岩波書店著者」から紹介される学生その他の人物は、努力云々以前に、個人的なこの著者との「縁故」により岩波書店への紹介状を得たと言える。

また、岩波書店社員の紹介に関しては、岩波書店はFNNへのFAXにおける「ご知友の中に岩波書店の社員がいらっしゃれば、その社員に直接ご連絡ください。いらっしゃらない場合は、当社総務部の採用担当に電話でお問合せください。」との回答からすれば、どうも総務部が社員を紹介する、またはそれに類似したことを行なうとの認識を持っているかのように思われる。岩波新書編集長の小田野耕明も、2月3日付のツイッターでの発言で、

「受けたいけれど、どうしても著者から紹介状をもらえないという人は、読んで気に入った本のあとがきにある編集者に電話をして(代表番号からでOK)、そう伝えてくれれば、紹介を断る人はいないと思います。」
https://twitter.com/#!/komei1107/status/165346279575142400

と述べており、社員による紹介は、受験希望者が働きかければ簡単に得ることができるかのようである。

だが、上の社員宛文書においては、この社員による紹介は、一種のその人物に関する推薦を意味しているのであって、安易に出されるものとしては規定されていない。ここでは「お知り合いの方に2013年度の社員募集を行う旨を伝え」とあり、受験希望者からではなく、社員から働きかけることが記されている。また、「知り合い」とは、『広辞苑 第5版』によれば、「互いに知っていること。面識があること。また、その人。知人。」であって、一定の交友が前提とされているものである。しかも、紹介した社員は、「社員紹介者カード」の必要事項を記入して会社に提出しなければならない以上、一定の信頼がない限り紹介しようとの気は起こるまい。

このように、上記の社員宛文書においては、岩波書店社員の紹介に関しても、受験希望者による社員へコンタクトをとろうという努力ではなく、社員との偶然的な個人的関係と信頼関係という「縁故」が重視されているのである。

前述のように、岩波書店は現在、岩波書店著者の紹介状という応募条件は、「一定のハードルを設けることで、希望者の強い意欲をみ」ようとの意図のもとに作られたとしているが、上の説明から明らかなように、そのような説明は成り立ちようがない。

岩波書店によれば、2013年度の採用人数は「若干名で一桁の前半」にしかならないとのことである。ところが、上で見たように、岩波書店は、わざわざ正式な依頼状を送って紹介を「岩波書店著者」に依頼しているのである。そのような「岩波書店著者」が推薦してくる人物、しかも、岩波書店内に「日頃お付き合いのある」社員が存在し、社員および会社自ら推薦を欲しいと思うような、岩波書店と関わりが深い著者の推薦する人物を、無下に扱うことができるだろうか。しかもこれに加えて、社員の知り合いで社員が推薦する人物もいるのである。そうすると、これらの枠のほかに、はたして何人が採用されることになるのだろうか。また、そもそも採用される可能性があるのだろうか。FNNへの回答によれば、2012年度の採用人数は5人である。前記の小田野によれば、「今度の4月入社は2人」である。
https://twitter.com/#!/komei1107/status/165344548397133825


3.

ネット上では、「縁故ならばなぜホームページ上で公開するのか分からない」とか「岩波書店は、何か意図があってホームページ上で、議論を呼ぶこと必至であるこの応募条件を公開したのだろう」といった趣旨の発言が散見されるが、私は、これは極めてシンプルな理由に過ぎないと思う。すなわち、会社上層部も採用担当者も、このような応募条件が、社会的に大きな注目を浴びるという可能性を全く想定していなかった、のではないか。私は、岩波書店は、自分たちがやろうとしていることが社会規範・社会常識から著しくズレているとは夢にも思わず、自分たちの行為が社会でどのように受け取られるか、という点への認識を全く欠いたままで、昔からやってきたという、このような条件を大っぴらにしてしまったのではないかと思う。私がこの首都圏労働組合特設ブログで繰り返し書いてきた光景である。

また、私は、今回の岩波書店の採用における受験希望者を紹介する著者または社員とは、基本的にはこの社員宛文書で規定されている者であって、メディア報道後の会社の主張とは裏腹に、会社依頼によらない「岩波書店著者」の紹介は、補足的なものとして想定されていたのではないか、と考えている。社員宛文書を素直に読めば、そのような解釈になると思うが、論議になっている「岩波書店著者」という言葉の曖昧さがそれを示唆していると思う。

そもそも「岩波書店著者」というのは、文言上では極めて曖昧なものである。岩波書店から1冊でも著書を刊行していればよいのか、また、刊行年度はいつでもよいのか。また、翻訳者や雑誌への寄稿者、講座・辞典類の執筆者も「岩波書店著者」なのか。私の知る限り、「岩波書店著者」の定義を会社が行なったのは、2007年11月に「岩波書店から1冊でも本を出版するか、または、『世界』等の岩波書店の雑誌で何回か記事を書いた人」だと役員が私に説明したのが唯一の機会である。

だが、岩波書店社員の浜門麻美子は、2月3日付のツイッターで、雑誌・本に一度寄稿したのみの人物も「岩波書店著者」であるとの解釈を述べており、これは2007年11月の会社発言とは食い違っている。

「もちろんOKですよ!RT @kikumaco: ぼくも「科学」に一度だけ寄稿したから、いいのかな “@GoITO: ぼく一度きり岩波書店の本に寄稿してるだけなんだけど、ぼくの紹介でもOKなんだろうか>岩波の採用試験”」
https://twitter.com/#!/hamakado_mamiko/status/165315217662820352

このように、「岩波書店著者」に関しては、社内でも統一した見解が共有されていない。ましてや、受験希望者が分かるわけもなく、これが一般の人間に「門戸は開かれている」採用形態であるとするならば、「岩波書店著者」の紹介が応募条件である以上、「岩波書店著者」とはどのようなものを指すか、あらかじめ受験希望者に分かる形で告知しておかなければならない。ところが、岩波書店はそのような当然の作業を一切行なっていない。これはいかにも奇妙である。

だが、受験希望者を紹介する著者または社員とは、基本的には社員宛文書で規定されているもの、という解釈ならば、このような疑問は起こりようがないのである。なぜならば、ここで想定されている「岩波書店著者」とは、社員の申請に基づき、会社が「依頼状」を送るに値すると判断した人物を指すからである。すなわち、当初の応募条件での「岩波書店著者」とは、単に本を出したとか論文を書いたとかいったことではなく、岩波書店が新入社員を推薦してくれるにふさわしいと判断し、依頼状を送るに値すると考えた著者、のことを主として指していたのではないかと思われる。これならば、細かい定義を示す必要などはじめからないのである。また、送られてくる膨大な応募書類に関しても、依頼状を送った「岩波書店著者」の「依頼リスト」と照らし合わせれば、片っ端から切っていけるのである。もちろん、例外はあるだろうが、これならば、確かに、「採用にかける時間や費用」を大幅に削減できるし、会社が言うように、「落とすための試験」になることも避けることができるのである。そうではなく、「自分の行動力で条件を満たせるように努力」する人材が主な応募者として想定されているならば、それらのケースとは全く別に、わざわざ会社が正式に推薦を「岩波書店著者」に依頼する合理的理由が見いだせないと思う。


4.

もちろん、受験希望者を紹介する著者または社員とは基本的には社員宛文書で規定されているもの、ということではなかったとしても、問題は変わらない。

岩波書店をどうしても擁護したい人間は、「岩波書店著者」の紹介に関して、確かに当初は社員宛文書のような条件だったかもしれないが、ホームページに公開された1月10日以降に関しては、「一定のハードルを設けることで、希望者の強い意欲をみることを目的として課された」との岩波書店の説明も妥当するはずであるから、問題ないと主張するかもしれない。だが、当たり前であるが、特定の「岩波書店著者」に対して会社は正式に人物推薦の「依頼状」を送るとしている以上、希望者の強い意欲をみることを目的として課されたとは到底言えない。

また、仮に受験希望者が、自分から自分の周囲の「岩波書店著者」を見つけ出し、その人物に、懇意の社員にコンタクトをとってもらって、会社から依頼状を送ってもらう、という手続きを踏もうとしても、それは極めて難しかったであろう。なぜならば、社員宛文書にあるように、この場合の締切は1月13日なのであって、ホームページ公開後わずか3日で、会社からの依頼は不可能になってしまうからである。「希望者の強い意欲」など見ようがない。

また、会社は、周りに「岩波書店社員」がいない人物には「自ら縁故を見つけてほしい」「一定のハードルを設けることで、希望者の強い意欲をみ」るなどと主張しているが、採用人数が極めて少ない以上、これらの人々は、岩波書店が正式に依頼した「岩波書店著者」の推薦する人物が獲得する推薦状に、匹敵する説得力を持つ推薦状を獲得しなければならないことになる。だが、ホームページの公開は1月10日であり、応募締切は3月13日であって、2013年度定期採用を希望する人物、特に学生が、たかだが2カ月以内にそのような推薦状を獲得することは、常識的には不可能である。


5.

以上のように、マスコミ報道以後の岩波書店のメディア上での発言は、岩波書店が岩波書店社員に対して行なってきた説明、および実際と著しく矛盾している。私には、これは、メディアの報道に対して、縁故採用が問題になるという認識を全く持っていなかったことを知られないために、苦し紛れに、「一定のハードルを設けることで、希望者の強い意欲をみることを目的として課された」「門戸は開かれている」などという説明を後付けで展開しているように見える。もちろん、これでも機会均等原理の公然たる否定という本質が消えるわけではないが、その性格を、社員宛文書にあるようなより露骨な形態から多少なりとも薄めることはできよう。もしそうならば、岩波書店は、メディアおよび公衆に対して、公然とウソをついていることになる。

ウソではないということならば、少なくとも、岩波書店は、岩波書店自ら正式に推薦を依頼した(する予定)の「岩波書店著者」が存在することを明らかにし、その事実と、メディア上で岩波書店が発言している弁明との整合性を公的に説明しなければならない。

また、岩波書店は、今回の応募条件は「出版不況もあり、採用にかける時間や費用を削減するため」であり、「著者の紹介、社員の紹介という応募条件は、昨年2012年度定期採用でも実施しており、以前も同様の応募条件で行っていました」などと説明しているが、この説明は、現在の全ての岩波書店社員が、同様の応募条件で入社したかのような誤解を与えるものである。私は、入社にあたって、「岩波書店著者」および「岩波書店社員」の紹介状など提出していないし、入社に際してそのような人脈は存在しなかったと思われる社員も私の知る限りで何人もいる。このような説明は、あたかも岩波書店社員が「縁故」で入社しているかのようなイメージを一般の人々に与えるものであり、「縁故」で入社していない社員にとっては極めて迷惑である。これについても、補足説明を公的に加えるべきである。

今回の岩波書店の応募条件が、極めて多くの一般の人間の会社に対する失望、怒りを招いたことは改めて言うまでもないが、他方でネット上では、もともと多くの企業、特にマスコミは「コネ社会」であるから、それを明らかにしただけだとする等、浅薄な擁護論が多い。現在の日本社会で、機会均等原理を公然と否定する今回の岩波書店の措置を、擁護する主張が多いという事実は、それ自体が興味深い考察のテーマであると思われる。

だが、そのような主張は、機会の平等の公然たる否定であるだけでなく、「コネ」を公然と肯定することそれ自体が、「コネ」を肯定する社会的風潮を助長する点を無視している。岩波書店は、採用時の「コネ」採用は望ましくないとの社会規範を公然と破ることで、日本社会に依然として根強い「コネ」擁護の声を顕在化、正当化させている。岩波書店の今回の応募条件が公的・社会的に認可されてしまえば、今後、同様の措置が他企業、特に出版業界の企業でとられる可能性は高いだろう。その場合、応募条件に「縁故」が課されることに加えて、採否の基準が今以上に「縁故」に左右されるようになるという二重の意味で、機会の平等に著しく反することになる。このような事態が、多くの人々、特に、雇用難に苦しむ多くの学生に対して大きな精神的被害を与え、また、雇用の機会を失わせることは明らかである。岩波書店の今回の措置は、企業としての社会的責任という観点を欠落させた行為であり、断じて容認されるべきではない。

岩波書店の今回の措置に関して、読売新聞によれば、厚生労働省就労支援室は「あまり聞いたことはない。採用の自由はあるが、厚労省としては基本的に広く門戸を開き、応募者の適性、能力に応じた採用選考をお願いしている」と発言しているという。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120202-OYT1T00976.htm

また、共同通信によれば、「小宮山洋子厚生労働相は3日、閣議後の記者会見で「早急に事実関係を把握したい」と述べ、調査に乗り出す考えを明らかにした。東京労働局が近く同社から詳しい事情を聴き、今後の対応を検討するという。」とのことである。
http://www.47news.jp/CN/201202/CN2012020301001408.html

これらは、機会の平等という社会規範が侵されようとしている以上、行政として当然の対応であると思うが、今後、調査がなされた場合、岩波書店は上記の社員宛文書とそれに基づいた紹介依頼等についても、誠実に説明するべきである。岩波書店は、FNNに送ったFAX回答では、この件に一切触れていないどころか、上記のように、明確にこれと矛盾した回答を行なっている。

私がこのようなことを書くのは、岩波書店はかつて、このブログで既に書いたように、数十年間にわたって残業代を払っていなかった件で、労働基準監督署から行政指導を受けた際に、労働時間管理記録を隠蔽していた前例があるからである。今回は調査に際して誠実に対応することを望む。

ちなみに、岩波書店社員の中には、このような行政の反応に対して、早速反発をあらわにしている発言も散見される。下のツイッターは、岩波書店労働組合およびその上部団体の出版労連で長年要職を務めている人物のものである。

「@hayakawa2600 ありがとうございます。厚生労働省まで乗り出してくるなんて。被災地の雇用創出とか、ほかにもっとやるべきことがあるでしょうが、と言いたいです。」
https://twitter.com/#!/jizit/status/165446962500481025

以上のように、メディア報道後の岩波書店の諸発言は、岩波書店社員に対して行なってきた説明、および実際と著しく異なっているものであり、岩波書店が現在、メディアに対してウソをついているとの疑いを強く抱かせるものである。私には、岩波書店は、これが問題になるなどという意識は全くないまま、今回の応募条件をホームページ上に載せてしまい、問題になってから、慌てて正当化のための口実を作っているように見える。そして、そのような行為が、結果的に、「コネ社会」に対して実は肯定的な日本社会の<空気>を顕在化させてしまっているように思われる(これは「コネなどどこでもやっているのだから、岩波書店への行政の調査はおかしい」など主張することで、結果的に岩波書店の今回の応募条件を肯定する言説も含む。当り前であるが、それを公然化することは、裏でやることとは別の問題である。このような主張者は、新卒採用の応募条件で公然と「縁故」をうたっている企業の具体的事例を挙げるべきである)。岩波書店が自社の行為の正当化に必死に固執すること自体が、大きな社会的悪影響を与えると考える。岩波書店が、社員採用に関して、「岩波書店著者もしくは岩波書店社員の紹介」との応募条件を撤回することを強く求める。

(金光翔)
[ 2012/02/05 10:58 ] 未分類 | トラックバック(-) | コメント(-)